「いかがなされました? 合戦前で眠れないのですか?」 | |
「ん――軍略でわからないところがあるの」 | |
「それはいけませんね。殿下……いえ、陛下はこれから幾度も軍を率いていただかなくては。わたくしでよければ、お答えいたしましょう」 | |
「ありがと、モルモル」 | |
「……その触手モンスターみたいな呼び方、やめていただけません?」 | |
「かわいいと思ったのに」 | |
「軍略以外も学ぶ必要がありそうですわね……それで、わからない部分とは?」 | |
「いくつかあるんだけど……」 |
■システムについて
「ラウンドはいつ経過するの?」 | |
「ラウンドでは、先手と後手がそれぞれ手番(ターン)を行いますわ。つまり両者が手番を終えて、先手の番が来るタイミング、それがラウンドの終わりですの」 | |
「それが10ラウンドで終わり? 最初のラウンドって0?」 | |
「開始時のラウンドは1ですわ」 | |
「すると10で終わりだから……実際には9ラウンド?」 | |
「いいえ。『10ラウンドが経過したら』決着でしてよ。1ラウンド目は、両軍の手番が行われ……そのまま10回目、すなわち10ラウンド目が来れば11ラウンド目にはならず、つまりそこで終わりですわ」 | |
「すると9ラウンド目までに優勢に立って、最後は守りに徹するべき?」 | |
「それは陛下次第ですわ。それまでに決定的な勝利を得られるかもしれませんわよ?」 | |
「む……」 |
「それと、連続行動って……手番(ターン)の行動を2回使うの?」 | |
「いいえ。使いませんわよ。そもそも手番の行動って何ですの?」 | |
「? だって、手番には3回行動できるって……」 | |
「3回行動なんてできませんわ。『兵カードか施設カードを3つ選んで、行動させる』のです」 | |
「同じ意味――」 | |
「では、ありません。選ばれた兵や施設はそれぞれ、別個に行動しますわ。よって、兵カードを3つ選び、それぞれに連続行動させれば……合計で最大6回の行動が可能でしてよ」 | |
「えっ……本当?」 | |
「自軍の勝敗に関わりますのに、謀りなどいたしませんわ」 | |
「それなら、攻撃を6回したり、2回移動を3回したりできるの?」 | |
「できません」 | |
「えっ? 今、6回行動できるって……」 | |
「連続行動とは『選んだ行動以外を続けて行う』こと。移動して攻撃、攻撃して移動、移動して建設、なんかはかまいませんけれど……同じ行動2回は不可能ですわ」 | |
(ガーン!) | |
「……今夜、改めて指導できてよかったですわね」 | |
「えっと、じゃあ移動してから私の【魔王の後継者】を――」 | |
「もちろん使えませんわ」 | |
「えっ、どうして?」 | |
「連続行動は『消耗状態となることで』可能ですのよ。連続行動で“2回目の行動をして消耗状態になる”わけではありません」 |
「あ、あのね、じゃあ一応聞くけど……」 | |
「まだ連続行動で何か?」 | |
「ち、違うんだけど……その、同じ兵を2回選択して、消耗せずに2回行動したり、2回目で連続行動して3回行動にしたりは……」 | |
「できるわけがないでしょう。同じ兵を2回選択の時点で無理ですもの。『同一の兵・施設を同じターン再度選択することはできない』とありますわ」 | |
(モルモルの移動攻撃→私の能力で通常状態→モルモルの二回攻撃……を必勝パターンで考えてた、なんて言えない……) | |
「理解いただけました? 本番で失策する前でよかったですわね」 | |
「《砲台》とか2回使えそうな気もするんだけど……」 | |
「使えませんわ。施設だって『行動終了チップ』で行動終了を示しますもの。行動終了した施設は選べませんわよ」 | |
「そ、そうなの……(ぷるぷる)」 | |
「もうわからないこと、ありませんわね?」 | |
「あ……待って……」 |
■施設について
「裏向きの施設があるマスに、敵軍の兵カードが入ったらどうなるの?」 | |
「手番(ターン)は切り替わっておりますし、即座に施設を表向きにして処理いたしますわ。その敵軍がモンスターなら破壊し、トループなら支配権を奪えるでしょう」 | |
「ヒーローなら?」 | |
「表は向きますけれど破壊も占拠もできませんもの。相手の施設のままですわね」 | |
「敵軍の施設にはモンスターかトループを向かわせるべき、なのね」 | |
「その通りですわ。突破力のため、ヒーローの手を借りても……あまりヒーローを突き出させては、10ターン目の決着を不利にしますしね」 | |
「そう……それじゃあ……」 |
■キーワード能力
「【突撃】や【疾駆】で移動中に隣接した敵兵は、表にできないの?」 | |
「陛下は全速力で走ったことはおありで?」 | |
「それくらいあるわ」 | |
「走るとき、横にあるものをどのくらい見ています?」 | |
「えっ」 | |
「敵に向けて一気に突進したり、全速力で進む時、横に何があるか、細かく見れるものではありませんわ。確かに厳密に言えば、兵の種別程度はわかるかもしれませんけれど」 | |
「…………うー」 | |
「ルールで再現すべき点でもないと思いますもの。よって、移動が終わった後のマスに接する敵だけが表になりますの」 |
「(読み返しつつ)……【突撃】って移動に使えないの?」 | |
「できませんわ。自身の勢いと体重をかけて、対象に一気に攻撃するのが【突撃】ですもの」 | |
「転んじゃう?」 | |
「精神的な問題ですわね。【突撃】は、向かう方向に敵がいるから結果的に2マス移動できているだけですもの。ただの壁や空気に向かっては【突撃】しづらいですわ」 | |
「そうかしら?」 | |
「壁や人形に一晩中話しかけるのは楽しい思い出かしら?」 | |
「……ううん、楽し、ない」 | |
「そういうことですわ。ですから、【突撃】では敵の本陣に到達も、できませんの」 | |
「【突撃】って移動方向の先にいる相手しか攻撃できなくて……消耗もする」 | |
「ええ。まっすぐ進んで、進んだ先の敵を討つだけですもの」 | |
「移動で曲がったり、接していても移動方向と違うと……攻撃できない?」 | |
「そうですわね」 | |
「弱くない?」 | |
「火力は大切ですわよ? 攻が1上昇しますもの。包囲できていれば2上昇だって見込めますわ」 | |
「だったら【突撃】じゃなくても……」 | |
「兵は拙速を尊ぶものですわ。手番中に“移動して攻撃”は確かにどの兵でも可能ですけれど。攻を上昇でき、しかも2マス移動できる者は彼らだけですのよ」 | |
「でも、突撃したら孤立して死んでしまう……」 | |
「兵が1減っても、敵を2倒せば勝ち目ですわ。それに……」 | |
「それに?」 | |
「絡め手しかない私ですけれど、まっすぐな殿方は嫌いではありませんの」 | |
「……オークの《猪野郎》でも?」 | |
「オークにはオークの味わいがありますのよ♪」 | |
「そ、そう……」 |
「じゃあ【黄泉返り】なんだけど……」 | |
「あら、私の専門分野ですわね。特に兵としての支援能力はありませんけど……」 | |
「ん……10ラウンド経って終戦した時、【黄泉返り】で復活した兵も『倒された兵のポイント』に入れるの?」 | |
「入れませんわね。また動き出したのですもの、倒されていませんわよ」 | |
「じゃあ、【黄泉返り】持ちばかりにすれば負けない……?」 | |
「お勧めしませんわ。私自身、アンデッドですし……さんざん使って参りましたけれど。彼らは決して強くありませんもの。時間稼ぎには適していますけれど、侵攻困難な上に運用には知恵が必要ですわよ」
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「私がバカって意味?」 | |
「泥臭い戦いになって、華々しい勝利は得られないという意味ですわ。負けない戦いに自信がおありでしたら止めませんけれど……相当精神的にタフでなければ勤まりませんわよ?」 | |
「……遠慮しとく」 | |
「陛下が馴れて来れば、アンデッドを使った用兵などいくらでもお教えしますわ」 | |
「ん……あれ? 【黄泉返り】を使った時って、行動したのはその【黄泉返り】の持ち主?」 | |
「ええ、その通りでしてよ。行動済みチップは本陣に配置された兵に置いてくださいませ」 | |
「【黄泉返り】使う、消耗状態から『回復』、本陣から移動……3手番(ターン)ないと戻ってこない?」 | |
「その通りですわ。うまく《白骨の塔》を建てれば事実上2手番(ターン)、壁にするだけなら1手番でしょうけれど。簡単にできれば苦労はしません」 | |
「……難しそう」 | |
「いずれは陛下にも、アンデッドを使った軍略に長けていただきましょう」 |
■各カードの特殊能力
「う……そうそう、もうひとつ。《呪い師カーナック》《ハーシャク遊撃部隊》《闇の祭壇》なんかで移動したら、移動した兵は行動済みにならないの?」 | |
「いえ、移動させる能力を使ったカードが行動済みになるだけですわ」 | |
「じゃあ、移動してからすぐ連続行動したりできるの?」 | |
「ええ。未行動で通常状態の兵でしたら、問題なく」 | |
「つ、強くない……? 私の能力が弱いような……」 | |
「ですが、陛下がいれば《カーナック》にその能力を毎ターン使わせることが可能でしてよ(手番中に行動できるカードがあと1枚になりますけど)」
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「そ、そう……じゃあ《カーナック》を私の軍に引き込めば……」 | |
「彼は敵軍ですわ。陛下がゴブリンはいらないとおっしゃったのでしょう」 | |
「え……だ、だって、ゴブリンたち私の悪口言ってたし……」 | |
「わたくしもいろいろ言われていますし、直接の悪戯だってされているのですけど」 | |
「やっぱり手下にしなくてよかったわ」 | |
「配下の言葉で逐一傷ついていては、魔王なんて勤まりませんわよ?」 | |
「っ……ど、どうせ私なんてモルモルの傀儡なんでしょう? そんなの関係ないじゃない」 | |
「え? 嫌ですわよ、わたくし。世界を牛耳るなんて面倒くさい。あとモルモルはやめてくださいな」 | |
「ええっ。だ、だって、いかにも暗躍してそうじゃない」 | |
「暗躍くらいしますわよ。子供を玉座に据えるんですから」 | |
「こども……」 | |
「子供でしょう。軍略もわかっていませんでしたし」 | |
「だって……」 | |
「わたくし、外道ですけど大人ですわよ? 子供を踏み台にするほど、落ちぶれていませんの」 | |
「…………」 | |
「大人になったら、外道として接してさしあげますわ。早く寝て明日の合戦に備えなさいませ」 | |
「…………」 | |
「それでは、よき眠りを。次の朝日くらいは保証してさしあげましてよ」 | |
「…………おやすみ」 |